中国の知識

天津:海河が流れる、九カ国租界の国際建築博覧会

· #天津#直辖市#华北#海河#五大道#近代建筑

天津は華北平原の北東、東に渤海を望み、海河が市街をうねるように流れて南北運河に分かれ、三岔河口で再び本流に合流して海へと注ぐ。明の永楽2年(1404年)に天津衛として築城され、今から六百余年。もとは漕運の要衝として栄え、明清時代は川沿いに発展した。近代に開港すると、九カ国が相次いで租界を置き、西洋の建物が群をなして並んだ。そうして天津の底色は「東西の融合」となった。一側にはヴィクトリア様式、バロック、ロココの洋館が立ち、他方には茶館で種子をかじりながら漫才(相声)を聞き、朝には屋台の煎餅果子(チェンビン)を楽しむ市井の暮らしがある。

天津のスカイラインと海河

五大道、歩いて入る生きた歴史

天津には数えきれないほどの街があるが、五大道は外せない第一歩だ。和平区のこの歴史地区は成都道・重慶道・常德道・睦南道・馬場道を骨格とし、英・仏・伊・独・西の様式を備えた庭付き洋館二千棟以上を集め、風貌保存建築と名人旧居が三百か所余り。「国際建築博覧会」と呼ばれても過言ではない。慶王府はよく保存された一つで入場24元、中庭の中日融合の装飾が見どころ。民園体育場は無料で、アーチ型のスタンドに欧風の趣がある。張自忠旧居などの名人旧居は路地の奥に多く、門のプレートを見るだけで民国の一幕に触れられる。楽をしたければ馬車で街を巡ろう。一人50元で御者が建物の裏話を語ってくれる。

五大道の庭付き洋館

早朝の五大道がいちばん静かだ。日光がプラタナスの葉を抜けてアスファルトに落ち、犬の散歩をする住民がうなずくこともある。その悠々とした空気が旅の緊張を一瞬で解く。二時間の予定が気づけば黄昏まで過ごす人が多い。通り沿いの小さな書店、ギャラリー、デザイナーズショップはそれぞれ立ち寄り値打ちがある。秋は石畳に落葉が敷きつめられ、冬は洋館の屋根に雪が積もり、窓から暖かい黄の灯りがもれる。

五大道のプラタナス並木

イタリア風街区、アジア唯一の地中海建築群

海河を北へたどるとイタリア風街区だ。かつてのイタリア租界で、地中海様式の建物が二百棟以上残り、アジアで唯一のイタリア風建築群である。マルコポーロ広場の彫刻とアーケード、ダンテ広場の優雅な線が、小さな欧州の町にいる錯覚を与える。梁啓超記念館は外せない。入場10元で書斎「飲氷室」が再現されている。曹禺の旧居も近く、この劇作家が青春を過ごした場所だ。夕暮れになるとレストランやバーが灯り、欧風の建物が温かい光に包まれる。食後に川辺を歩けば、街の喧騒は背後に消える。

イタリア風街区のマルコポーロ広場

古文化街、天津の「根」と「土」

五大道やイタリア風街区が天津の「洋」なら、古文化街はその「根」だ。南開区のこの明清様式の街は、天后宮、泥人張(泥人形)、楊柳青年画、風箏魏(凧)といった民俗を集める。天后宮は北方でも稀な媽祖廟で、世界三大媽祖廟の一つ。入場10元、香煙は絶えない。毎年旧暦3月23日の皇会では、高足踊り、獅子舞、秧歌が繰り広げられる。泥人張の彩色塑像は生き生きとし、楊柳青年画は鮮やか、風箏魏の凧は精巧だ。買わずとも職人が作る現場を見るだけで面白い。疲れたら揚げたての耳朵眼炸糕を一つ。外はサクッと中は甘すぎないあんこで、約5元。

古文化街のアーチと店

入り口のアーチ、灰色の瓦の棟、軒下の宮灯籠には、古い天津の味わいが漂う。天后宮に入ると香煙のなかに地元の人が祈る姿が見え、その虔誠さに街の優しい一面を感じる。古文化街は川沿いで、疲れたら水辺に腰を下ろし、向こう岸の高層と遊覧船を眺めれば、さっきの喧騒は遠のく。この動と静の切り替えこそが、天津でもっとも魅力的なリズムだ。

古文化街の天后宮

海河、街の魂

海河は天津の母なる川だ。川でいちばん目を引くのは天津之眼(天津アイ)の観覧車。永楽橋の上に架かり、世界で唯一橋の上にある観覧車。車輪の径110メートル、高さ約120メートル、一周約30分、入場70元。日没前に乗れば、河面が赤く染まり、やがて両岸の灯りへと移ろうのを見られる。並ぶのを避けたければ海河遊覧船へ。天津アイ桟橋から獅子林橋、金湯橋、解放橋あたりまで約50分、100元。甲板で風に当たると両岸の建物が光のなかで連なり、夜の舟旅は昼よりも趣深い。

天津アイ観覧車と海河

舟に乗るだけでなく、川沿いを歩くのも気持ちいい。プロムナードは古文化街からイタリア風街区まで続き、獅子林橋、金湯橋、北安橋を経る。それぞれに個性がある。獅子林橋の石獅子は姿かたち様々、金湯橋は天津解放で東西の部隊が合流した場所、北安橋の橋頭彫刻には仏蘭西風の優雅がある。夕暮れには市民が川辺で走り、釣りをし、広場舞(集団ダンス)をし、夕焼けが水面に映り、高層のガラス壁が灯る。この何気ない時間こそ、海河でもっとも心を打つ。

海河の橋と夜景

近代都市のもう一つの顔

天津の近代史は終わりのない本だ。和平区赤峰道の磁器家は、外壁に数億枚の古磁器のかけら、水晶、瑪瑙を貼りめぐらし、「もっとも贅沢な家」と呼ばれる。約50元。街には李叔同や袁世凱の旧居も点在する。多くの人が李の送別の歌「長亭の外、古道の辺」を口ずさむ。旧居に入ると百年前の琴の音が聞こえるようだ。解放北路の銀行ビルは今も百年前の姿をとどめ、かつての「東のウォール街」は北方金融センターとしての天津の栄華を物語る。

赤峰道の磁器家

天津は中国近代工業と教育の発祥の地でもある。洋務運動以来、鉄道、電信、郵便がここに集まった。今、解放北路を歩けば、角のプレートや古写真にその時代が残る。歴史好きにとって天津は、探さなくとも過去と出会う街だ。

解放北路の近代銀行建築

北へ、薊州の山水へ

天津は市街だけではない。北の薊州区へ行くと別の風景が広がる。盤山は「京東第一の山」と呼ばれ、山容雄大で林幽かに清らかだ。清の乾隆帝は幾度も登り、「盤山を知っていれば、なぜ江南へ下ることがあろうか」との句を残した(民間伝承)。入場約75元、道は急でなく、一日のハイキングに適す。古寺、奇岩、清泉が絶えず、頂上から平原と貯水池を望む。さらに北の黄崖関は天津管内で唯一の長城の関所で、尾根にそびえ、敵楼が雄々しく、城壁がうねる。八達嶺ほど混まず、かえって蒼茫とした趣がある。盤山と黄崖関を同じ行程に組めば、天津の知られざる雄大な一面が見える。

薊州・盤山の山景

実用情報

  • ベストシーズン:春と秋がもっとも過ごしやすく、夏の夕べの河辺も涼しい。
  • アクセス:北京から天津へは京津都市間高速鉄道で約30分、日帰り可能。
  • 食べるべき:煎餅果子、耳朵眼炸糕、狗不理包子、十八街麻花。
  • 夜:相声の茶館は天津の日常、海河両岸の夜景と天津アイは外せない。

天津の夜景と灯火

…